厳密には、「平泳ぎという泳法は、大半の人にとって痩せるのに適した泳法ではない」というのが正確です。
ネットで検索したことのある方ならご存知かと思いますが、平泳ぎは「痩せるのに適した泳法」としてもてはやされています。
概ねこんな感じです↓
- 平泳ぎって楽だよね!^^
- 楽なのに他の泳法と比べてカロリー消費が大きい!(・o・)
- だから平泳ぎがダイエットに一番オススメ!
- とりあえずゆっくり30分くらい継続して泳ごう!^^
ただ上の文章には明確な間違いが存在します。というのも「(本当の)平泳ぎは楽ではない」という事実、そして「大半の人にとって平泳ぎのカロリー消費は小さい」というのが真実だからです。
この記事では、なぜ平泳ぎでは痩せられないのか、そして、じゃあどういう泳ぎ方が痩せられるのか(持論)について踏み込んで解説したいと思います。
「平泳ぎは痩せる」という勘違いのネット記事が横行した理由
まず、紛らわしいことを書きますが、実際問題平泳ぎのカロリー消費は大きいです。
ただし、それは競泳の平泳ぎに限るという残念な注記がつきます。
平泳ぎはバタフライの次にカロリー消費が激しい
「平泳ぎは痩せる説」を唱えている記事の根拠は、各泳法ごとのカロリー消費を定義したMETs(メッツ)という指標によるものだと考えられます。
METsをざっくり説明すると……
- 各種運動が、安静状態(じっとしている状態)の何倍カロリーを消費するかを示したもの
- 安静状態は1METs(実質基礎代謝に相当)
- もしある運動が5METsと定義されているなら、その運動は安静状態の5倍カロリーを消費する(※「運動」による消費は5METsのうち4METs)
という感じです。
で、水泳の4泳法のMETs値はいくらかというと、以下の表をご覧ください:
※クロールの練習強度は「68.6m/分未満, きつい強度」におけるMETsを参照、(データ引用元:国立健康・栄養研究所「身体活動のメッツ(METs)表」(pdf))
なんと、平泳ぎはバタフライの次にカロリーを消費する、さらにクロール以上のMETsであることが分かります(=一定時間泳いだときに、クロール以上にカロリーを消費する)。
以上のデータから、「平泳ぎは痩せる」という記事を書いた人は、おそらくこのような論理が働いたのでしょう:
- 平泳ぎとクロールなら平泳ぎのほうが楽!
- 平泳ぎのほうが効率良く痩せられる!
- 平泳ぎはダイエットに最適な泳法だ!
そして、「平泳ぎは痩せる」という記事がネット界に横行してしまいました。
似たような記事が並んでいるのは、アクセス数稼ぎのために書いたライターが後に追従した(コピペした)からと考えられます。
「痩せる平泳ぎ」と「それほど痩せない平泳ぎ」
ここまでの話だと「やっぱり平泳ぎは効率的じゃないか」と思われるかもしれませんが、問題はここからです。
平泳ぎのMETsは練習強度に応じて2種類の定義があります。
先程の表の10.3METsは、競泳の平泳ぎによるものです。そして、もう1つは「レクリエーションの平泳ぎ」です。
レクリエーションの平泳ぎって何なのか……と思いますが、おおむね
ってところだと考えます。
要は、競泳経験者でない人が泳ぐ平泳ぎは、往々にしてレクリエーションの平泳ぎに該当すると思っていただいて差し支えありません。
では、この2種類の平泳ぎでMETsがどれくらい違うのかを見てみると……
データ引用元:国立健康・栄養研究所「身体活動のメッツ(METs)表」(pdf)
競泳の平泳ぎの10.3METsに対し、レクリエーションの平泳ぎは5.3METsです。つまりカロリー消費量は「平泳ぎは痩せる」と紹介しているダイエットサイトが想定したカロリー消費量の約2分の1ということになります。
ちなみに、5.3METs付近の他の運動を挙げると……
- 6.4km/hで歩く(≒早歩き):5.0METs
- 丘の斜面をハイキング:5.3METs
- 乗馬全般:5.5METs
という感じです。どうでしょう?「早歩きと一緒くらいならあえて泳ぐ必要もないのでは……?」と思ってしまいませんか?
「平泳ぎは楽」という勘違いが過ちの始まり
あなたが競泳の平泳ぎをしているか、レクリエーションの平泳ぎをしているかは、だいたい次の質問に対する回答ではっきりします。
この質問にYesと思った方は、残念ながら99%くらいの確率でレクリエーションの平泳ぎをしています。
実は……平泳ぎってかなりキツい泳法なんです。バタフライの次にカロリーを消費するというMETsの指標も納得できます。
相手にもよりますが、そこそこの確率で「は?」とキレられます。^^;
具体的にどうキツいのかは、競泳大会の平泳ぎの姿を見れば一目瞭然です。YouTubeに参考になりそうな試合動画がありましたので、時間のある方はチェックしてみてください(再生と同時に競技が始まります)。
YouTubeより引用、全日本水泳大会、男子200m平泳ぎの決勝の模様
水を掻く動作(プル)の際は上半身を水面から出すように泳ぎます。泳法こそ違えどこの動作はバタフライとそれほど変わらない動作です(むしろバタフライはここまで出ないかも)。
シャッタータイミングによっては腰付近まで水中から出ているものもあります。やれば分かりますが、ここまで体を浮き上がらせようとするとキツいです。それなりに強く水を掻く必要があるので……
上の動画の一コマ。100m泳いでターンをしている場面。
そして、個人的に一番キツいと感じるのが、ある程度の距離を泳いでいる中での蹴伸び→ひと掻きひと蹴り(水中)動作です。数秒間とはいえ、この動作を行っている間当然呼吸ができないので「キツい!」と感じます。だから僕は平泳ぎは嫌いです……「キックが全然進まないから」というのもありますが(笑)
なので、
- プルの動作の時、顔だけ水中から出しているような平泳ぎ(≒水を掻けてない)
- プルの掻きが、単に「顔を水中から出すためだけの予備動作」になっている平泳ぎ(≒これも水を掻けてない)
このような泳ぎ方をする人はジムで良く見かけますが、これらはいわゆる「レクリエーションの平泳ぎ」に相当する5.3METsしか消費できてないと考えられます。
場合によっては5.3METs以下という可能性も考えられます。
平泳ぎは究極まで楽ができる……さらなるカロリー消費値減少の恐れも
「平泳ぎは楽」というイメージが一般に浸透していることからお分かりの方も多いかと思いますが、平泳ぎは楽しようと思えば極限まで楽をすることができる泳法です。
水を掻かず、キックも強く蹴らず、水面から顔が出たり隠れたりするような平泳ぎも一応平泳ぎです。
けど、こんな平泳ぎを30分やったところで大したカロリー消費はしないのがオチです。もしかしたら水中ウォークをやったほうが効率的かもしれません。
「平泳ぎ=しんどい」、だから痩せる。
※↑の動画のラスト50mのシーン。映っているのは200m平泳ぎ世界記録保持者の渡辺一平選手
結局のところ、平泳ぎはしんどいです。しんどいからこそカロリー消費量も増え、そして結果的にダイエットに効果的で痩せられる……となります。
平泳ぎは楽と思っている、平泳ぎは楽という感覚で泳いでいる人は、ほぼ全員痩せない(効率の悪い)平泳ぎをしている可能性が高く、あえて「平泳ぎは痩せる!」と推奨されているほどの効果を得られないだろうと思います。
要は……
と僕は考えます。
ここまでの時点で、冒頭でも紹介した「ゆっくり30分くらい平泳ぎを泳ごう!」というダイエットサイトで見かける結論はなかなかの暴論ということがお分かりいただけると思います。
まずゆっくり泳いでいたらカロリー消費はショボい(歩いている方がマシかも)ということ、そして、30分泳ぎ続けるという初心者殺しには十分すぎる無茶振りアドバイス。
「書いたやつ出てこいよ、30分プールサイドで見てやるからやってみろよ」とニヤつきながら言いたくなります。
僕が思うに、「30分泳いでみよう」って書いた人はたぶん30分はおろか、5分も持たないと思います(こんなアドバイスを贈るレベルの人が30分も継続して競泳の平泳ぎを泳げるとは思えない)。
平泳ぎに変わる一番効率よく痩せる泳法とメニューについて
早い話がクロールです。
背泳ぎでもいいかもしれませんが、効率面を考えるとクロールのほうがいいと考えます(背泳ぎも手を抜こうと思ったら極限まで抜けるので……)。
クロールは長く泳ぐのに適した泳法であるため、有酸素運動によって脂肪を燃焼するという考えからしても最適な泳法です。
練習メニュー(ある程度泳げる人向け)
痩せようと思ったらそこそこの心拍数(例:170bpm)を保った状態で泳ぎ続けるのがベストなので、できる限り長い距離を1本で泳ぐのが一番効率的です。
よって、200mを5本泳ぐくらいなら1000m×1本のほうがいい……のですが、1000mを一気に泳いだら中盤で思い切り失速してしまうという場合は、分けたほうが効果は上がると思います。
ただ、分ける場合インターバルをあまり広げすぎると、休憩の間に心拍数が平常値に近づいてしまいカロリー消費の効率が落ちてしまうので、その点は要注意です。
とりあえず目安としては50mあたり50秒ペースくらいで泳げる強度で泳いでみるといいと考えます。まだその域まで達してないという方は自分のペースで全然構いません(50mを1分ペースでも十分)。
ちなみに10METsの強度が出るクロールの目安の速度はなんと68.6m/分未満と50mあたり50秒より速いペースだったりします(「未満」ってどういうこと?って思いますが、おそらくスキル次第で上下するということだと思います:慣れれば慣れるほど10.3METs消費するのに求められる速度は上がる)。
要は「そこそこキツいな」と感じる強度でできるだけ長くクロールを泳ぐのが水泳ダイエットの最も効率的な方法といえます。
飽きた時用メニュー例
そして、ある程度繰り返すようになると一番つらいのが「飽きる」という現象です。
僕もたまに「今日は20分泳ぐぞー」とか思って蹴伸びして100m(1分30秒くらい)もしないうちに飽きます^^;
そういう方にはピラミッドという練習メニューがオススメです。
ピラミッドは、1本ごとに泳ぐ距離を最初は増やしていって、ある距離をピークを境に減らしてスタート時の距離に戻って終了というメニューです。
具体的には……
・1本あたり100mアップ、ピークを400mとする場合…
100m → 200m → 300m → 400m → 300m → 200m → 100m の順に泳ぐ
⇒総距離1,600m
・1本あたり50mアップ、ピークを200mとする場合…
50m → 100m → 150m → 200m → 150m → 100m → 50m の順に泳ぐ
⇒総距離800m
となります。インターバルは距離に比例して設定します(100mで2分インターなら、400mは8分)。
ピラミッドの最大のメリットは、下り始め(距離が減りだして)からの「あれ、もう終わり?」感がハンパないところです。
400m泳いだあとに泳ぐ300mの「あっという間感」は一度体感したらハマります。^^;
僕はピラミッドでの最長距離は1600m(↑の例)ですが、気が向いたらピークを500mにしてやってみようと思ってます。一気に総距離が900mも伸びるんで一気に難易度が上がるのですが……。
練習メニュー(これから泳ぎ始める人、泳ぎ始めて間もない人向け)
まずは長い距離を泳げるようになるのが第一歩と考えます。
25mでキツいという方は、25mを適度なインターバルで繰り返し泳ぐところからスタートするといいです。
具体的には……25mを30秒前後で泳げるなら、 25m × 10本を1分15秒インターバル程度でこなしてみてください。
・0秒:スタート
・30秒経過:25m到達
・1分15秒経過:2本目スタート
※25m到達してから1分15秒後にスタートではない
慣れてきたらインターバルを短くするか、本数を増やすか、1本あたりの距離を伸ばすとOKです。
気がついたら50mを1本泳げるようになりますので、そうなったら次は50m × 8本、次は100m × 5本……という感じで、1本あたりの距離と総距離を増やしていくのがポイントです。
最初は無理と思うかもしれませんが、水泳はマラソンや筋トレと一緒で克服的スポーツなので、(特に序盤は)全員やったらやった分だけ伸びます。
でも慣れると「今日は400m?ほーい」という感覚(文字通り「アップ」という感覚)で泳げるようになります。
まぁ、最近は400mもアップをするようなメインメニューをやってないのですが……
1回(1日)の練習のたびに総距離を25m伸ばしていくだけで、11回目の練習日には最初の練習日より250m多く泳げるようになっている計算になります。
週2日ペースで泳ぐならこれくらいは結構わりと余裕でできるようになります。頑張ってください。
結論:「楽なのに痩せる」なんて都合の良い論理は存在しない
この記事で言いたかったのは……
平泳ぎは痩せる!と主張するほど平泳ぎは効率よく痩せられる泳法ではないし、痩せるための泳法として適してない
ということです。
平泳ぎの消費カロリーが多いのは(競泳のフォームで泳ぐと)キツいからであって、楽だと思いながら泳いでいる人はそれ相応のカロリーしか消費されず(早歩き程度)、かえって効率の悪いダイエット泳法となります。
効率よく痩せるなら、クロールをできるだけ長い時間・長い距離泳ぐことがベターです。
特に始めたてのころは、泳いだ総距離に比例して連続して泳げる距離も伸びていきますので、最初は100mでもキツいと感じたとしても、すぐに100, 200, 400…と泳げるようになるので頑張ってください。
平泳ぎの泳ぎ方(参考)
平泳ぎを丁寧に解説している素晴らしい動画があったので、合わせて紹介します(特にキックが参考になります!)。
コメント
ゆっくりした平泳ぎを週3回3ヶ月続けたら10kg痩せました ウソ書かないで
クロールでは疲れて長く泳げないですよ
> 匿名さん
コメントありがとうございます。
私からの回答は以下のとおりです:
① 10kgの減量おめでとうございます。3ヶ月で10kgというのはすごいですね。
② 当記事は「平泳ぎは痩せない」とは書いていません。
「平泳ぎが一番痩せるしオススメ!」という安直な記事が横行していることに対し、
「ゆっくりな平泳ぎのカロリー消費は非常に小さく(徒歩レベル)、しかしながら
当然カロリーは消費するので痩せることは痩せるが、実は非効率である」
ということを、定量的なデータに基づく考察をもとに主張しているにすぎません。
そのため、「ウソ」は書いていません。
③ 「クロールは疲れて長く泳げない」は、残念ながら匿名さんの主観でしかありません。
主観が通るのであれば、「2000mをクロールか平泳ぎか楽なほうで泳げ」と言われたら
私は迷わずクロールを選択します(なぜなら平泳ぎは疲れて長く泳げないため)。
一年以上前のことにとやかくいうのも大人げないかもしれないですが(そもそも見ていないだろうし、書いても理解できないでしょう)、
週3×3ヶ月(12週)なら36回
10kg痩せたのが脂肪であるなら90Kcal。
一回あたり2500cal消費
これは競泳の練習でもなかなか難しいレベル。(15メッツで2時間以上か)
この手のは、(主に食)生活の変化が主体で、水泳そのものの消費は付随要素ですね。
匿名さん
コメントありがとうございます。
私は最近、ダイエットに水泳を取り込むのは「健康を維持しながら痩せる」には適していますが、
単に「痩せるための手段」としては適してないような気がしています。
というのも、泳いでカロリーを大量に消費したら、その分食欲が湧いてカロリーを摂取してしまうからです……^^;
私はダイエットを行うにあたっての計算として、脂肪1kg=9000kcal、うち2割を水分と仮定して取り除いた「7200kcal」をカットすれば
脂肪1kgを体からカットできる、という合ってるかわからない理論を元に食事制限(主に糖質)を行った結果、
家にひきこもっていながらあっさり数kg痩せられたのですが、
反面ジムに通って週4~5回ペースで泳いでいたときは全く体重が落ちなかったという実経験があります^^;(体脂肪率は落ち、筋肉量は増えましたが…)
ご参考:https://www.booboomasa.com/low-carbohydrate-diet-matome/
「運動しながら痩せる」はイメージ的にも理想ですが、これを実現するには相当な意思の強さが必要だなと感じますね……
[…] […]
ダイエット話しアルアルですね…
私は週2日ジムで筋トレ20分
水泳(平泳ぎのみ)ゆっくり20分
で一年間で10キロ痩せました。
ちなみにスポーツ経験者(実業団)
です。ゆっくり平泳ぎはたいして痩せないは正解では無いですね。
速効性に欠けるだけでじっくり続ければ成果は出ます。
息の上がるクロールでは続かないので
自分のペースで泳げば良いのではないでしょうか?
↑の人が言う通りクロールは息が上がって瞬発的なものになる。
つまり、この記事の人の言うクロールだって「競泳」の10METsを参考にしてるんだから結局「素人平泳ぎ」vs「競泳クロール」なら競泳クロールが勝つに決まってる。
他の「平泳ぎが痩せますよ」って言ってるサイトよりよほど安易。
長い時間体を動かせた方が良いのに瞬発クロールを持て囃して「ほら!クロールで30分泳ぐのがいいよ!」なんて不可能。
平泳ぎの良い所は足や腕の可動域という点もあるし、地上の散歩と違って水からかかる負荷もある。
素人は黙っとれの典型。
これに騙される人が少ないといいよね。
コメントありがとうございます。
思わず記事を読み返してしまいました……
「クロールで30分泳ぐのがいい」という意図の記述をしている箇所を示していただけませんか?
あと「瞬発クロール」とは何でしょうか?もしよろしければご教示いただけますと幸いです。